JRchanの日誌

2024年から札幌に移住したフクロウ🦉(夫)とタヌキ🦝(妻)の共同日誌

モンスター

こんばんは。

 

ここ数週間、私たち夫婦の間では昔、読んでよくわからなかった名作漫画を読もうという話になって浦沢直樹の「MONSTER」を読みました。

以下、ネタバレを含みます。

 

MONSTERは1994年から2001年までビックコミックで連載されていたサイコサスペンスです。あらすじはドイツの病院で勤務する天才外科医である主人公のテンマは頭部を銃で撃たれた少年(ヨハン)の命を救います。その後、成長したヨハンが周囲の多くの人間を殺害していくのを知ったテンマは、自分がその少年を蘇生させたことに責任を感じて、自分の手でそのヨハンを殺そうと追跡をはじめます。またヨハンには双子の妹(アンナ)がいて、アンナも殺人をおかすヨハンを止めようとヨハンを探し始めます。

 

舞台はドイツからスタートして、最後はチェコに行きつきます。94年というベルリンの壁崩壊直後ということもあり、まだ東側、西側で分かれていた時代の空気を感じさせます。ヨハンとアンナの出生も冷戦下の旧チェコスロバキアの人格改造実験が関係してきます。東西冷戦後のヨーロッパ統合の期待感と東側の暗い雰囲気は、フクロウ(夫)の好きな映画、クシシュトフ・キェシロフスキの「トリコロール」3部作を思いおこさせます。タヌキ(妻)的には双子のヨハンとアンナは東西ドイツの象徴と解釈しています。

 

その他にも色々と当時の情勢を感じさせる部分があり、例えばドイツの通貨はブンデス・マルクです(ユーロ導入は1999年)。また極右勢力からトルコ人移民を助ける場面が出てきますが、移民問題がトルコからの移民に集中していた時代を感じさせます。現在のように中東やアフリカからの移民問題や(トルコはイスラム教ですが)宗教絡みの衝突の描写は出てきません。20年経って現在は極右政党のAfDが一定の支持を集めていますが、当時はまだそのような動きはなかったのだと思われます。

 

タイトルにもなるモンスターなのですが、これを誰を指すのかということを考えてみました。いくつか説が出てきます。物語の序盤ではヨハンのカリスマ性と神秘性が協調されることもあり、モンスター=ヨハンが有力と考えていました。

 

2つ目の説は、チェコスロバキアの秘密警察の一員であり、西ドイツを攻撃するために人格改造実験を計画したフランツ・ボナパルタです。彼がヨハンを生み出す直接の原因となります。

 

3つ目の説は、ヴォルフガング・グリマーというものです。彼もヨハンと同様に人格改造実験を行っていた施設の出身です。14歳以前の記憶がほとんどなく、冷戦時代は西側のスパイを行っていました。その後、ジャーナリストとして人格改造実験を行っていた施設の非人道的行為を調べています。幼少期の施設での教育のせいで、彼は窮地に陥ると人が変わったような狂暴性、暴力性を発揮します。

 

4つ目の説は、モンスターというのは全ての人の中に、潜在的には存在しており、何かのきっかけで表に出ることがあるというものです。フクロウ(夫)としてはこの立場を取りたいと思います。人格改造実験を行っていた施設の人間の殺し合いを引き起こしたヨハンは、その潜在的なモンスターを操ることができました。人間の暴力性というのは、ささいなことや疑心から起こります。ヨハンにそこを利用されたラスト2巻は非常に読みごたえがあります。